<終了>「酒田塾」酒田達臣先生からのメッセージ(2)

皆さまこんにちは。
酒田達臣です。

メッセージ(1)をお読みくださった方々の中には、
接骨院で「脳梗塞」を見つけようとするなんて、
ちょっとおかしように感じられた方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

「そもそも外傷の施術をするのが役目の接骨院に
そんな患者さんが、一体どうして来られるの??」
そう思われた方々も多くいらっしゃるのではないかと思います。

そこで今回は、
私の接骨院で実際にあったケースを1例
簡単にご紹介させていただきたいと思います。

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「そこの道を歩いていて今、右膝をガクッとやった。」

そう訴えて、この70歳男性患者さんは来院されました。

「つまずいたんですか?」
「いや、別につまずいたわけじゃないんだけどね。」
「痛かったんですか?」
「うーん、痛…かったなぁ…」

痛みがある患者さんなら、「痛かった!」
と即答するはずの質問に
わずかですが、0.3秒くらいの間があることに
少々違和感を覚えつつ。

とりあえず膝の機能に関する一通りの問診を行って、
続いて半月板損傷その他の、
「膝崩れ現象」をきたす障害がないか、
「膝関節の機能検査」に移りました。

・視診・触診(腫れているか、熱を持っているか)
・膝蓋跳動の有無
(膝関節内に水または血液が溜まっていないか)
・関節動揺性の確認(靱帯損傷はないか)
・マクマレーテスト(半月板損傷はないか)
・関節可動域測定(可動域制限はないか)
・アプレイテスト(半月板損傷はないか)

その他ルーティンで行う膝の検査を
一通り行いましたが、
奇妙なことに何一つ異常は見当たりませんでした。

…別に膝に悪いところはないようだけど…
包帯でも巻いて、様子を見ることにするか…

そう思いもしましたが、 

でも、そもそもなんでガクッとなったんだろう…

…いきなり力が抜けた…ってことなのかな… 

うーん、そうなると…
念のため中枢神経(脳と脊髄)も
チェックしておかなければ、ダメか…

そこで
一通りの、「中枢神経の機能検査」をしたわけです。

・上肢・下肢バレー徴候
(手と足に麻痺がないかを見るテスト)
➡ごく軽度だが、上肢・下肢ともに右が下垂する。
(軽度の右片麻痺がある可能性あり)

・深部腱反射
(打腱器で腱反射を見るテスト)
(中枢神経障害があると反射が強く出る)
➡上下肢ともに右が軽度亢進。
(※亢進とは反射が強く出ること)

・片足起立テスト
(片足で何秒間立っていられるかを見るテスト。)
(10秒以上で正常。)
➡左は10秒以上、右は少し悪く、頑張って8秒。
しかしこの時、「右足に力が入らない」との訴えあり。

その他、病的反射や鼻指鼻テストなど
数項目の神経学的検査を追加。

この時点で、私の心拍数は
一気に増加しているのを自覚しています。

冷静を保つ最大限の努力をしながら、急いで
追加で問診を行う。

「右膝がガクッとなったとき、頭は変じゃなかったですか?」
「先に頭がジーンとしてきたね。」

「めまいは?」
「めまいはなかったです。」

「頭がジーンとしてきたってのは、どんな感じ?」
「一瞬、頭がやばいな、という感じはしたね。」

「頭は痛くない?」
「痛くない」

「めまいはしないのね?」
「しない」

「吐き気は?」
「ないです」

「頭はどんな感じ?」
「ボーッとはする」

…ここで私はロックオンしました。

「脳梗塞」だ!!

「右膝がガクッとなった」というのは
まさに今突然、右片麻痺が出現した結果だったんだ!

直ちにスタッフに指示。
「救急車呼んで!!」

私は携帯電話でt-PA療法ができる医療機関に電話で打診。

(※t-PA療法とは、
急性期脳梗塞に対して行う専門的治療です。
再疎通療法とも呼ばれます。
詰まった血栓を溶かして、
脳に再び血液が流れるようにする治療法です。)

直後、奥様に電話。

「ご主人が軽い脳梗塞を起こされた疑いもあるので、
救急車を呼びました。
すぐに来ていただけますか?」
と伝えた。

救急車到着。

コピーしたカルテを救急隊員に渡し、
素早く状況説明。

脳梗塞の可能性があって緊急の対応が必要なことと、
再疎通療法ができる脳神経外科または
神経内科のある医療機関に搬送する必要があることを伝えた―

搬送された患者さんは緊急入院となり、
そのまま2ヶ月入院して、急性期脳梗塞の治療と、
今回の脳梗塞の根本原因についての精密検査が行われました。
➡その結果、高度の頚部内頚動脈の狭窄が判明。

(※内頚動脈とは、脳に血液を送っている大事な動脈です。)

左右両側とも70%詰まっており、
それに起因する脳梗塞ということがわかり、
その手術ができる東京の専門病院に転院して、
頚動脈内膜血栓摘出術(CEA)が行われました。

(※CEAとは、動脈硬化で細くなった頚動脈を広げて、
脳梗塞の原因となる血栓(血の塊)を
取り去ってしまう手術です。)

その後患者さんは
後遺症なく、お元気でお過ごしです。

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いかがでしたでしょうか。

これは当院で実際にあった一例です。
接骨院にもこういった患者さんが来られている、
それが事実なんだということが、
お判りいただけたかと思います。

脳梗塞はいきなり意識を失って
倒れてしまうものばかりではありません。
ニコニコしながらこうやって
ご自分で歩いて来られることもたくさんあります。

その軽くて済んだ「ファーストアタック」を放っておくと、
「セカンドアタック」で大きな脳梗塞を起こし
亡くなってしまうこともあるのです。 

そして、脳梗塞には「治療法」があります。
大血管が梗塞して、いきなり亡くなってしまうようなケースを除いて、
適切な治療を行うことで、
後遺症なく治ることも望めるのです。 

しかし、急性期のその治療法には
「タイムリミット」があります。

脳梗塞発生後3~4時間。
これを過ぎると、
詰まった血管の先にある脳細胞は壊死してしまい、
その機能は永遠に失われます。

3~4時間はあっという間に経ってしまいます。
病院に搬送後、急性期脳梗塞の確定診断が下されるまでに
医師が、問診、身体所見、MRI検査など行っている間に
すぐに小一時間くらいは経ってしまいます。 

だから私たちが
「ちょっと様子を見よう」としては、いけないのです。
迅速な対応が必須です。

“その時”患者さんの将来は
「直ちに救急車を呼ぶ」
その私たちの行動だけに、かかっているのです。 

私が患者さんから学ばせていただいた、
全ての診療科にわたる数々の病態の「記憶」と
カルテ、紹介状、ドクターからの報告や
MRI画像などの「記録」、
これらはきっと、皆様方のお役に立つに違いないと思います。

私の命が無くなる前に、
それらをすべてお伝えしなければいけない、
その思いでおります。 

私がこのように
骨折や脱臼以外の患者さんの病態も、微力ながらも
力の限り把握しようという、
その情熱を持つに至ったのには
理由があります。

それは、
「今までに亡くなっていった患者さんの想い」
そして
「その患者さんたちへの誓い」
なんです。

私の役目は次のことだと思っています。
それは、
『その重要な症例の情報を、余すところなく
セラピストの皆さまにお伝えをし、
共有していただくことで、その情報を
皆さまの目の前の患者さんに
お役立ていただくこと』

「鑑別判断」の
“技術”と
“必要最低限の知識”と
“スピリット”。

この3つをご一緒に学びながら
患者さんに隠された病態を
少しでも見つけ出し
「大事な場面でもお役に立てるセラピスト」を
目指しませんか?

その先には、
同じ情熱を持つたくさんのドクターや
セラピストとの出逢いが待っています。

さて、本セミナーでは、
この他にも、ご参考までに
私が行ってきた、専門医との連携の方法や
必要となる医学的知識とスキルを
効果的に身に付ける方法も、
お伝えをしていきます。

https://mediways.co.jp/topics/20200209/