「古くて新しい業界」接骨院、治療院の正しい事を知ってほしい

接骨院、治療院の業界を、僕は「古くて新しい業界」と呼んでいる。

鍼灸は今から2,000年以上前に、古代の中国で誕生し、日本には6世紀頃、朝鮮半島から渡来した。

柔道整復術は今から1300年ほど前に日本古来の武術・柔術がルーツで、活法をベースに西洋医学も取り込み発展した伝統ある業界だ。

開業するには、柔道整復師、はり師、きゅう師の資格が必要。専門学校、大学で学び取得できる国家資格だ。関連して、あん摩マッサージ指圧師という資格もある。

1998年までは国の規制のため全国で14校だけだった養成学校も、規制緩和され、現在100校を超える柔道整復師、鍼灸師の養成学校が存在する。特に都市部においては、近年、たくさんの接骨院や鍼灸治療院を見かける様になった。

僕が新しい業界と言っているのは、この様な時代の流れを言っている。

そんな「古いけど新しい業界」で、僕は2003年にひょんなキッカケで業界の人となった。当時、神戸の人材紹介企業にいた僕は、導かれる様に横浜で創業したばかりのベンチャーに入社した。以降、2017年まで、業界専門の人材紹介や物件リサーチ、開設、機器ディーラー、システム販売、ファクタリング等、幅広く手掛ける総合企業の役員を務めた。

 

2017年5月、整骨院経営を目的としたメディウェイズ を創業。店舗経営を通じ体験した経営者側と、ユーザーとして両方の課題を知る事ができた。(今も首肩の慢性痛で鍼灸院に通っている)

 

そして今はこの業界におけるスタートアップ企業として新たに舵を切り、テクノロジーとアイディアでイノベーションを起こそうとしている。

 

この業界は医療、介護、リラクゼーション、美容まで、複雑に絡み合った分かりにくい業界になっている。

整体師と柔道整復師は何が違うの?接骨院と整骨院の違いは?保険でマッサージしてくれるところだよね?

これまで僕は、この手の質問を数え切れない位の人から受けてきた。一生賢明に説明しても「ふーん」という程度の反応が多かった。

業界側とユーザー側の情報格差は大きいと、常々感じてきた。

毎日そんな事ばかり考えているなか、Google アラートで今年6月6日に配信されてきた「ビジネスジャーナル」で気になる記事を読んだ。

マッサージ店の倒産増加が止まらない…無資格者の施術が蔓延、不正な広告や療養費請求も

僕はこの強烈なタイトルに一瞬で惹かれたが、冷静に読み込むと、業界における問題が色々な問題を掻い摘んで、マッサージ店というジャンルに詰まれた記事だと思った。

あながち間違えてはいない、むしろ真実が書かれている。

しかし、一般の人が読んだら勘違いする危険性をも秘めていると思った。なので補足と解説をしたいと思い、この記事を書こうと思った。

それでは記事を読み始めていく。

2018年のマッサージ業、接骨院等の倒産は93件に達し、過去10年間で最多を記録した。

このリソースは東京商工リサーチで、僕も以前この資料を読んでいた。

マッサージ業、接骨院等とあるが、「等」には他に何の業種が含まれるのか。

よく調べると注釈があった。

【※1】
本調査の「マッサージ業、接骨院等」は、TSR業種コードの「療術業」から抽出した。具体的には、マッサージ業、整骨院、鍼灸院、整体などを含む。

僕はこの注釈を読んで「療術業」「マッサージ業」「整体など」という言葉に少し違和感を覚え、さらに詳しく調べてみた。

東京商工リサーチの「TSR業種コード」は、総務省の日本標準産業分類に準拠し構成されたという事だ。総務省のサイトから産業分類コードを手繰っていくと次の事が分かった。

「療術業」は、大分類 P 医療,福祉→中分類 83 医療業→ 835 療術業 に分類された次の2つの業種である。

8351 あん摩指圧師・柔道整復師の施術所
8359 その他の療術業

ふむふむ。

先ほどの「等」は、「その他の療術業」の事だと理解した。という事は、この疑問は解決しないのだか、リラクゼーション業は別の括りだという事を思いだした。

7893 リラクゼーション業(手技を用いるもの) として、平成25年に新設された業種に分類されている。(新設に至った経緯

なので、商工リサーチ資料の「倒産が多いマッサージ業、接骨院等」は療術業であり、リラクゼーション業は含まないのだ。ということは、ビジネスジャーナルの下記の記述には若干の矛盾が感じられる。

――国家資格の無資格者がマッサージしているケースもありそうですね。あん摩マッサージ指圧師等は国家資格ですが、最近はたとえば「◯◯リラクゼーション」「◯◯ほぐし」などの名目で無資格のマッサージ店が乱立しています。

さあ、ここでまた違う問題が生まれる。

 

無資格のマッサージは違法だが、マッサージではないリラクゼーションは「合法」

端的に一言でいうと、治療を目的とした施術がマッサージであり、リラクゼーションを目的とした施術はリラクゼーションなのだ。かつてはあん摩マッサージ指圧師の免許を持たない人達が無資格でマッサージをしているという事が問題になった。2004年に起きたエーワンの事件だ。

 

 

この事件がキッカケになり、今ではリラクゼーション業を健全に発展させるという趣旨の元、下記の様な業界団体が存在しており、活動も活発だ。

 

ではこの「無資格のマッサージ」という言葉が何を意味するのかは、また別の機会に書きたい。

厚労省は都道府県と連携し、無資格者によるマッサージや指圧の防止に努めています。

 

記事の中でこの様に説明した根拠は、厚生労働省から出ている通達を根拠としているのだろう。

医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処罰の対象となる

 

厚生労働省が説明する「マッサージ」の定義はこうだ。

しかし、施術者の体重をかけて対象者が痛みを感じるほどの相当程度の強さをもって行うなど、あん摩マッサージ指圧師が行わなければ、人体に危害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある行為については、同条のあん摩マッサージ指圧に該当するので、無資格者がこれを業として行っている場合には、厳正な対応を行うようお願いする。

少し混乱してきたところで、自分自身も頭の中を整理したくなったので、次の様な比較表を作ってみた。

 

図表(柔道整復、はり師きゅう師、あん摩マッサージ師、整体師等の違い)

柔道整復、はり師きゅう師、あん摩マッサージ師、整体師等の違い(メディウェイズ)20190609

https://mediways.co.jp/blog/20190609/

なぜ、急激に数が増えたのか。

この理由について、この記事ではとても端的に説明している。この通りだと思う。

関 06~16年で、柔道整復師は3万8693人から6万8120人と76%増加しています。この背景には、資格取得のための養成校の増加があります。当初、国は需給調整のために養成校の増加を抑制していましたが、1998年に福岡地裁が新設を認めない国の対応を違法と判断したことで、方針転換が図られました。その後、全国で14校しかなかった養成校は2017年度には110校に増えています。

学校の増加に伴い、合格者数も増えているというデータについては、私のブログでも書いているので、参考にしてほしい。

国家試験の合格者数の推移グラフ

なお、あん摩マッサージ指圧師の学校は、視力障害者の職業として守られているので新設が認められない。これまで、いくつかの学校が設立に動いたが実現していない。

 

不正行為について

また、「○○療院」「○○治療所」など医療機関と誤認するような屋号が見受けられる

この記述については、こちらがリソースかと思われた。この議論はまさに審議中の課題であり、直ちに違法という訳ではないので、注意が必要だ。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会の議事論に詳しく書かれている。下記のリンクを参照にしてほしい。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212370_00006.html

――業界的に不正が横行しやすい体質があるのでしょうか。   関 接骨院では、骨折や捻挫などの施術にあたり「療養費」の不正請求も後を絶ちません。不正請求を行った柔道整復師の免許取り消しや業務停止処分は08年からの10年間で171人におよび、うち69人は逮捕されています。

この業界で不正が起こり易い体質なのかは、僕は他の業界との比較をした事がないので分からないが、たくさんの不正事件が起きた事は事実だ。

記事に記述されているのは、柔道整復師の療養費請求という狭い範囲での話だ。「マッサージ業」全体での話ではない事を補足したい。

柔道整復師の業界で起きる主な不正は、療養費の架空請求(水増し)と、無資格者による施術だ。

この両方の不正が明るみになった事件が思い出される。2004年に起きた森侃二氏(有罪)が逮捕された事件だ。施術所19カ所を経営し、110人以上の従業員を抱え年商約6億円を売り上げていた。保健所への開設届は出していたが従業員の大半は無免許。さらに従業員の約70%は就学ビザなどで来日している中国人だったという。そして免許は偽造されたものもあったと聞いている。検索すると記録が残っていたのでリンクを貼っておく。

その後も、何度か類似の事例が新聞に取り上げられてきた。最近でも、整骨院でこの様な事件が起きている。

整骨院でいうところの無資格者というと、マッサージではなく、柔道整復になる。整骨院でもマッサージしてくれると思われるが、「これはマッサージではなく柔道整復術です。」と回答が返ってくるはず。あくまでもマッサージはあん摩マッサージ指圧師しか出来ないのだ。

ちなみに、このブログを書いた甲野さんは私の知り合いだ。彼は柔道整復師でありながら、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ師の4つの資格を持っている。

この様に整骨院でもマッサージ師が勤務する場合もあるし、柔道整復師で鍼灸師の資格を持つ人もいる。その場合、ひとつの施術所を接骨院と治療院として二重に登録している。

なお補足すると、鍼灸師と呼ばれる資格者は、はり師、きゅう師の両方を持った人を指す。また、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の3つの資格を「あはき」と呼ぶ事もある。

知識や経験が浅いから不正に手を染めるの?

さて、この記事に書かれている不正が起きる理由については、僕は同意出来ない。

柔道整復師は養成校を卒業後、5~10年ほどの実務経験を経て独立するケースが大半でしたが、今は卒業生の2割程度が資格取得後すぐに開業し、十分な知識や経験を得ないまま、不正行為に手を染めるケースが少なくありません。

この2割の根拠のリソースは分からないが、多店舗展開している企業経営の場合であれば、あながち間違えではない。

しかしその場合でも管理柔道整復師として厚生局に受領委任登録をしているという事であり、実態は開設者は法人であり、本人が開業しているという事ではないと思う。いわゆる「雇われ院長」だ。

なので、「卒業後すぐに開業するから不正行為に手を染める」というロジックには違和感を強く感じた。

そして最後、記事はこの様に締めくくられた。

指針やルールの策定をしっかりと行い、不適格業者を排除しつつ、健全な業者を育成していく必要があります。

この一文に強く共感できた。

そもそも、何が正しく、何が不正なのかが、とても曖昧であり、長年に渡り問題が先送りされてきた業界だ。
そのため、各自がそれぞれの解釈で行動してきたことで、世間から失った信頼もあると思う。
そもそも、解釈が曖昧な業界の中で、中の人としては他人任せにしてはいられない。自らが、職業としての価値を再定義し、ユーザー(患者さん)の声に耳を傾け、時代に合わせて進化していかねばならない。

そのために、出来る事は何か、僕は常々考えて行動していきたいと思う。

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プロフィール

小林 靖
整骨院・治療院業界で17年。IT活用で業界活性化と価値向上を目指す活動中。始動 Next Innovator 2018(第4期)、中小機構BusiNest「アクセラレーターコース」受講。妻と2児の4人家族。趣味は自転車。